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【動画】ヒマラヤルリシジミ (Oreolyce vardhana) [世界の蝶 / Butterflies World]

【動画】ヒマラヤルリシジミ (Oreolyce vardhana)

 世界の屋根ヒマラヤはある意味で我が国の蝶の故郷とも言え、その多様な蝶相は我々を惹きつけてやまない。きょうはそんなヒマラヤ特産の小さなシジミチョウを紹介したい。本稿については当会名誉会員の森下和彦氏の論文『中国・ヒマラヤの蝶雑記』. 2007. Butterflies No. 45: 49-53)に拠るところが大きい。

Oreolyce vardhana.jpg
Oreolyce vardhanaの2亜種(森下論文より)。左側のネパールの個体群は小型である。

 本種が属するOreolyceは東洋区のルリシジミの中の小属で、わずか6種類がヒマラヤ北西部からボルネオにかけて知られている。いずれの種も雄交尾器に顕著な突起(brachia)を有することから、当会理事のシジミチョウ研究家、高波雄介氏はかつて本属を「キバゲニルリシジミ」と命名した。
 さて、本種vardhanaはヒマラヤ北西部からネパール東部まで分布が知られる種で、特異な大型のルリシジミである。なかなかアクセスの容易でない場所に分布するせいか、日本人蝶愛好家で実際に生きた姿を見た人も多くないと思う。

 昨年秋にインド西北部ウッタラカンドを訪れた時、標高2,300mほどの常緑広葉樹林帯で本種を観察することができた。大型のルリシジミゆえ、力強く飛翔する姿には感動した。白いタイルに誘引されて吸水に訪れた個体をようやく間近で撮影した。残念ながら翅表は見せてくれなかったが、特異な裏面の斑紋が強く瞼に焼き付いた。吸水を終えると、勢いよく飛び上がって、樹冠に消えていった。



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南洋パラオの蝶 [世界の蝶 / Butterflies World]

南洋・パラオ諸島の蝶

map.jpg
▲パラオ諸島の地図(出典:パラオ政府観光局)

 このほど天皇、皇后両陛下が慰霊のためにご訪問され、一躍脚光を浴びたパラオ共和国。パラオは1914年から1945年まで日本が統治していた。リュウキュウムラサキ(Hypolimnas bolina)の赤紋型が「パラオ型」と呼称されていることをご存じの方も多いと思う。
 タイムリーなことに、当会会誌No.67に「パラオ諸島の1984年および2010年のチョウ類(1)」が掲載されている。著者は鹿児島の重鎮、元当会会長の福田晴夫氏と、福田氏の教え子である二町一成氏である。両氏はリュウキュウムラサキの研究で長年世界をリードしているが、その研究の一環としてパラオ諸島で調査をされた。その結果を2回に分けて詳述したもので、今後のパラオ諸島のチョウ類研究の基本となる文献であろう。ちなみに続編はまもなく発行されるNo.68で掲載予定である。

Euploea algea Palau.jpg
▲ウスグロマダラ(Euploea algea) パラオ諸島コロール島産 
Euploea algea label.JPG
▲同標本のラベル

 さて、ブログ編集子の手元にもパラオ諸島の標本が1つだけある。それが上記のウスグロマダラ(Euploea algea)である。本種はネパールからサモア諸島まで広く分布することが知られ、多くの亜種に分割されている。このパラオ諸島産の1頭は、少し前に先達からご恵与いただいたものである。ラベルには1941年とあり、飼育羽化の個体のようである。この標本が得られてから7か月後、太平洋戦争が開戦することになる。採集・飼育者名も書かれていないが、彼はあの苛烈な戦争を生き延びたのだろうか。

 ことしは戦後70年。両陛下の慰霊に合わせてパラオ諸島の蝶について当記事を紹介させていただいた。以前、ハルマヘラ島で得られたムラサキシジミ属の古びた標本について記事を書いたことがある。その中で、「平和でなければチョウの研究などできない」と書いた。今回のウスグロマダラの古びた標本が語るのも同じ事実であろう。物言わぬ標本は確かな事実を教えてくれる。



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世界の名蝶シリーズ No.5 モンシロモドキセセリ / White Dawnfly (Capila pieridoides) [世界の蝶 / Butterflies World]

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▲原記載の図、真ん中に王のごとく鎮座する(Moore, 1878; Proc. zool. Soc. Lond. 1878(3): pl. 45, fig. 2)

世界の名蝶シリーズ その5 白色の貴公子、モンシロモドキセセリ
(Capila pieridoides)


 ブログ編集子の身辺多忙により、このところ更新がすっかり滞ってしまった。当ブログの愛読者にはお詫び申し上げたい。これまでのような頻度での更新は難しくなるかもしれないが、毎日100人を超える読者に来ていただいているので、何とか続けていきたいと思う。(同じようなことを毎回書いているような気もするが)

 割に好評のシリーズ「世界の名蝶」、今回は地味な種の多いセセリチョウの中でも、異色の貴公子を紹介したい。モンシロモドキセセリ(Capila pieridoides)は大陸ではインド北部から中国、マレー半島、ボルネオ島にかけて割に広く分布する種である。大型・稀種の多いオバケセセリ属(Genus Capila)の中でも、とびきりの異彩を放つ姿をしている。♂は白い地色に黒い斑紋、♀は一転して茶褐色の地色に白い斑点となる。なぜ♂がこのようなシロチョウを思わせる色を獲得したのか。じつに興味は尽きない。

Capila pieridoides M UP.jpg
▲♂表面(中国産)
Capila pieridoides M UN.jpg
▲♂裏面(中国産)

 本種を野外で実際に見た人は多くないと思われる。さまざまな情報を総合すると、棲息地は1,000mから2,000mの原生状態の森林の奥深くに限られるようである。♂は素早く飛び、しばしば湿地や獣糞に訪れるという証言もある。高名な昆虫写真家の海野和男氏はヴェトナムで世界初とも思われる本種の鮮明な生態写真を撮影されているので、まさに驚愕の一言である。

 本種についてもうひとつ気になる記述がある。インドのアッサムで本種を採集した、超A級の採集家Doherty氏は「このチョウの胴体と翅は、ラン科のヴァニラとムラサキ科のヘリオトロープ(キダチルリソウ属)が混ざったような、非常に強い芳香を持つ」と指摘している。また、Corbet & Pendlebury (1992)もHartertの記述を引用し、「ヘリオトロープの花に似た匂いを発する」と記述している。

C. pieridoides.jpg
▲匂いを発する器官なのかと疑われる毛束

 ♂の標本を見てみると、特徴的な毛束があることに気づく。残念ながら本個体では匂いは感じ取れなかったが、あるいは吸蜜植物の関係などで強く匂うこともあるのかもしれない。

 大きさ、美しさ、珍稀度、謎めいた生態。いずれをとっても世界の数多のセセリチョウの中でも白眉と言ってよい種だと思う。
 

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アオスジアゲハと近縁種(その2)~Common Bluebottle (Graphium sarpedon) and allies (Part 2) [世界の蝶 / Butterflies World]

アオスジアゲハと近縁種(その2)~Common Bluebottle (Graphium sarpedon) and allies (Part 2)


▲吸水するオナガタイマイ♂(インドネシア・スマトラ島にて)

 アオスジアゲハとその近縁種ということで、続編でまず動画を1本紹介しよう。同属のオナガタイマイ(Graphium antiphates)の吸水シーンである。ことし3月に当会の若者がインドネシアを訪れた際に撮影してきたものである。腹端から盛んに排出するポンピング行動がよく分かる。アオスジアゲハの属するGraphium属は♂の吸水性が高いことで有名である。ほとんどの種で発生当初は湿地に集まる♂の集団が観察される。一方で♀は吸水することは稀で、通常は樹上に活動域があるのか、なかなか姿を見ない。

G. meeki (Bougainevile, PNG).jpg
Graphium meeki (ブーゲンビル島、PNG産)

 一方で♂が長らく未知で、多くの愛好家・研究者の垂涎の的だったのが、ソロモン諸島とパプアニューギニアの島嶼部に分布するイサベルコモンタイマイ(Graphium meeki)である。本種については阪口浩平博士の不朽の名作『図説世界の昆虫1 東南アジア編Ⅰ』(1979、保育社)に詳細な紹介記事があるので、多くの日本人にとっても馴染みの深い珍種である。記載に使われた最初の採集者が、かの有名な世界最大のチョウ、アレキサンドラトリバネアゲハ(Ornithoptera alexandrae)の発見者として名高いミーク(A. S. Meek)であり、追加の個体を得たのが、ニューギニア周辺の蝶相解明に大きな貢献をしたストラートマン(Ramon Straatman)である。いずれも探検採集家としては世界屈指の実力者たちで、阪口浩平博士は紹介記事の末尾をこう結んでいる。

「ミークとストラートマン、この2人の卓越した採集家の腕をもってしても、なおきわめて少額の報酬しか与えなかったサンタ・イサベル島の自然! 未知の雄は果たしていつの日に、何人の手によって得られることだろうか」 (阪口浩平、1979)

 阪口博士は結局meekiの♂を見ることなく彼岸に旅立たれてしまった。未知の♂が得られたのは、阪口博士が紹介記事を書いてから10年を経た1990年代の初頭のことだった。
 現在ではタイプ名義亜種の産地、ソロモン諸島のサンタ・イサベル島のほか、パプアニューギニアのブーゲンビル島からも知られているが、まだまだ日本で本種を持っている人は多くないし、実際に本種の生きている姿を見た日本人は恐らく居ないと思われる。(もしおられたら、当会の会誌にぜひ記事を書いていただきたい
 ソロモン地区の深い深いジャングルに、人知れず舞うイサベルコモンタイマイ。多くの愛好者を魅了してやまない、アオスジアゲハ属屈指の名蝶である。

meeki description.jpg
Graphium meekiの原記載(1901, Novitates Zoologicae 8(4): 402)

(つづく)

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アオスジアゲハと近縁種(その1)~Common Bluebottle (Graphium sarpedon) and allies (Part 1) [世界の蝶 / Butterflies World]

アオスジアゲハと近縁種(その1)~Common Bluebottle (Graphium sarpedon) and allies (Part 1)

G. sarpedon.jpg
▲吸水するアオスジアゲハ♂(沖縄県にて)

  アオスジアゲハ(Graphium sarpedon)はここ数十年の間に東京、大阪、名古屋をはじめとする日本の都市部で最も勢力を伸ばしたチョウの1種ではないかと思うことがある。人と車に溢れ、天を衝くビルが林立する都会の中でも溌剌と飛んでいる姿を良く見かける。これは恐らく食樹のクスノキが大気汚染に強い樹種として街路樹で盛んに植えられたことに起因している。さらに都会化が進行すると、コンクリートジャングルでヒートアイランド化現象も起きるが、もともと熱帯ジャングルの出自を持つ本種にとっては、逆に棲みやすい環境になったのだろう。

  ブログ編集子が小学校に上がる前、本種はどうしても採集したい蝶のひとつだった。チャンスがあっても、子供の振るネットをやすやすと躱して、あっと言う間に遁走してしまう姿を見送り、何度地団太を踏んで悔しがったことだろう。ある時、駅前のクスノキの並木にいくつもの個体が飛んでいるのを見つけ、連日通ってついに採集した時の嬉しさは30年以上経った今でも鮮明に覚えている。
 さて、このアオスジアゲハ、これまでの理解ではインドからニューギニアまでに広く本種sarpedonが、スラウェシと周辺に近縁種milonが分布すると考えられてきたが、去年新たな研究成果が発表され(Page and Treadaway, 2013)、これまでのアオスジアゲハがじつに7種に分かれてしまった。不覚にもこの論文を入手したのが最近だったので、去年撮影し、ブログで「最美のアオスジアゲハ」として紹介しようと思っていたソロモン諸島の個体群isanderが、もはや独立種となってしまった。眠らせるのももったいないので、アオスジアゲハを含むGraphium属について、断続的に何度かに分けて紹介したいと思う。

G. isander (Malaita, Solomon).jpg
Graphium isander (マライタ島、ソロモン諸島産)

  まずは“最美のアオスジアゲハ”として紹介するはずだった、現在は独立種のGraphium isanderである。前翅の青色紋列が、通常は1列だが本種では鮮やかな2列となるのが特徴。ここが“最美”である所以。タイプ名義亜種の産地はパプアニューギニアのブーゲンビル島、ソロモン諸島の各島で、他にソロモン諸島のニュージョージア島ほか2島から亜種impar、インドネシアの西パプア州やパプアニューギニアのニューアイルランド島などから亜種imparilisが知られる。
 日本ではありふれた普通種だが、世界に目を転じるとアオスジアゲハも奥が深い。

(つづく)

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驚愕の巨大セセリチョウ [世界の蝶 / Butterflies World]

数年前に当会のニュースレターNo.48で、南米の巨大セセリをウスバキチョウと並べて紹介した。アゲハチョウとセセリチョウの対比が良かったのか、記事はそれなりに好評だった。

Jemadia scomber.jpg
▲左が南米の巨大セセリ(Jemadia scomber)、右はウスバキチョウ(Parnassius eversmanii)

このセセリについて情報提供いただいた、当会理事でセセリチョウの専門家、上原二郎氏から最近になって再び驚くべき情報がもたらされた。

「あの巨大セセリをしのぐ超巨大セセリを入手した!」

というのである。上原コレクションでJemadia scomberを実見した身としては俄に信じがたい話であったが、とりあえず展翅が上がったということで、画像をお送りいただいた。

確かにデカい!!

Jemadia and Nosphistia.jpg
▲左上が超巨大セセリ(Nosphistia zonara)の♀(上原二郎コレクション)

この種はNosphistia zonaraというJemadiaに近縁な種で、コロンビア、エクアドル、ペルー、ブラジルから知られる稀種のようである。特に♀が巨大化するようで、この標本の前翅長は42ミリ、もはやセセリチョウの常識を超える巨体である。世界最大のセセリとしては、アフリカに分布しているPyrrhochalcia iphis (Drury, [1773]) がよく知られているが、本種も大きさにおいて負けていないのではないかと推察される。まさに驚愕するほかない、南米のアマゾネス・セセリである。南米のジャングルは深い。

なお上原二郎氏は本種について次号のニュースレターに紹介文を寄せて下さったので、詳しくはそちらを参照されたい。


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世界の名蝶シリーズ No.4 アオヒオドシ / Mexican Tortoiseshell (Nymphalis cyanomelas) [世界の蝶 / Butterflies World]

Vanessa cyanomelas.jpg
▲ 原記載の図(Doubleday, [1848]; Gen. diurn. Lep. (1): 201 (Lep.), (1): pl. 26, f. 5)

世界の名蝶シリーズ その4 中米の幻、アオヒオドシ
(Nymphalis cyanomelas)


 ブログ編集子の身辺多忙により、8月の更新がすっかり滞ってしまった。当ブログの愛読者にはお詫び申し上げたい。これまでのような頻度での更新は難しくなるかもしれないが、毎日100人を超える読者に来ていただいているので、何とか続けていきたいと思う。

 さて、創立時からの当会会員で編集委員長も務めた手代木求氏が私的に発行されている「せるば」というミニコミ紙がある。すでに号数は360号を数えるほどに長く続いているが、最近の号に本記事で紹介するアオヒオドシについての記事があった。アオヒオドシについては、かつて本会会誌No.3 (1992)で森下和彦氏も紹介されていた。そこで、今回は本種について改めて紹介したい。

 日本にも分布し、我々にも馴染みの深いヒオドシチョウやキベリタテハ、エルタテハを含むヒオドシチョウ属(Nymphalis)は世界的に見ると6種ほどの小さな属であるが、その分布域はユーラシア大陸と北アメリカ大陸をほぼカバーする広大な分布域を持っている。ちょうど今の時期、北海道から中部地方の山岳地帯で見られるキベリタテハを例にとってみよう。分布域は森下氏の論文に掲載された図を以下に再掲するが、一目瞭然の広大な版図である。

distribution map of Nympahlis spp..jpg
▲ヒオドシチョウ属3種の分布図(実線:キベリタテハ、青い網掛け:エルタテハ、点線&赤い丸:アオヒオドシ)

 日本の感覚ではキベリタテハは山岳のチョウであるが、ヨーロッパやアメリカでは市街地の林でもよく見られる身近なチョウで、しかも北米ではコロラド州の低地やカリフォルニアの海岸線では年に2化、バージニア州ではおそらく年3化もするという。(Scott, 1986) このような広域分布を可能にしている理由として、森下氏は「酷寒と乾燥には非常に強いが高温と多湿の組み合わせを忌み嫌う蝶群」と喝破しているが、卓見であると思う。

 さて、この僅か6種ほどのヒオドシチョウ属の中に、世界的な珍種が含まれていることを知る人は多くない。それが今回の主役、アオヒオドシ(Nymphalis cyanomelas)である。アオヒオドシの分布域は上掲の地図の赤い丸で囲った場所、メキシコ南部からエルサルバドルにかけての狭い地域に限られる。その分布の様は、あたかも広域分布種のキベリタテハの祖先種が特異な地域・気候に特化して種分化し、僅かに生き残ったような感じを抱かせる。

 このアオヒオドシ、記載されたのは1848年と古いのだが、その後得られた数は僅かで、未だに日本に標本があるのかどうかも分からない。そういうわけで残念ながらちゃんと標本を図示できないので、アメリカのサイトへリンクを貼るので、こちらで見て欲しい。この膨大な情報量を誇るサイトでも、本種についての記述はほとんど無く、いかに情報が乏しいかよく分かる。1970年代から80年代にかけて、メキシコ・チアパス州やエルサルバドルで新たに得られたようであるが、最近の記録は見当たらなかった。
 翅全体が青光りするという、この謎のヒオドシチョウを追い求めて中米に行ってみたいものである。

(参考文献)
手代木求, 2013. アオヒオドシに迫る. せるば. 360: 1445-1446
森下和彦, 1992. 世界のヒオドシチョウ属. Butterflies 3: 36-45


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世界の名蝶シリーズ No.3 マルバネカワセミシジミ / Banded Cycadian (Theorema sapho) [世界の蝶 / Butterflies World]

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▲ ♂ 表面 (エクアドル産、大木隆コレクション)

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▲ 同裏面 / Ditto, UN

世界の名蝶シリーズ その3 マルバネカワセミシジミ
(Theorema sapho)


 まったく想像もつかず、これまでに見たこともない蝶に出会うのは楽しいものだ。ブログ編集子は日本の他には東南アジア、北米を主に専攻してきたため、特異な蝶の宝庫である中南米、アフリカのファウナには疎い。
 そんな中、某日、日本人研究者としては恐らく最も中南米での調査経験が豊富な当会会員の大木隆氏のコレクションを拝見する機会を得た。大木氏のよく整理されたコレクションを眺めていて、思わず目に留まったのが本種。モンシロチョウくらいもある大型のシジミチョウ。表も裏もギラギラ光る青色光沢が実に豪奢な装いである。
 ブログ編集子はマルバネカワセミシジミと名付けたが、もう少し良い名前があるかもしれない。本種はパナマからエクアドルにかけて知られる稀種のようで、♀は前翅に白い帯を持つ。この♀の外見から何とドクチョウに擬態しているのではないかという説もあるようだ。稀種なので生態に関する知見は少ないが、原生状態の森林に限って棲息し、高い樹上に留まっていることが多く、地上に降りることが少ないという。ところが、モルフォチョウのトラップとして使われる青い光沢紙には誘引されて地上近くにもやってくるそうな。それにしても、とんでもないシジミチョウである。
 誰か元気な若者に本種の幼虫を探してもらいたいものである。(エクアドル産、大木隆・所蔵)
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熱帯の島に舞うゼフィルス [世界の蝶 / Butterflies World]

 熱帯の島に舞うゼフィルス

 日本でもゼフィルスのシーズンに入ってきたが、きょうは海外のゼフィルスの話題を紹介したい。

 フィリピンの西側に浮かぶ、細長い形をした島がパラワン島である。島の中央部には険しい山岳地帯があり、自然林が良く残された島として知られている。

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▲パラワン島位置図(Wikipediaより)

 この島の山岳地帯には、われわれ日本人愛好家にも馴染みの深いゼフィルスが1種類棲息している。パラワンミドリシジミ(Palawanozephyrus reginae)である。30年ほど前にドイツ人の研究者によって発見・記載された種で、一時はある程度の数が得られたものの、ここ10年ほどは現地での採集規制が厳しくなったことなどから、見る機会が少なくなっていた。
 去年からことしにかけて、新たに得られた標本を見る機会があったので、貴重な採集地の風景写真とともに紹介したい。
 パラワンミドリシジミが得られるのは、島の山岳地帯のピークや稜線などでの吹き上げに限られるようだ。この場所は南西部にあるMt.Gantungという1700mほどのピークで、雲霧林の中を急登する厳しい行程ののちに辿り着く。

Mt. Gantung climbing.jpg
▲ピークまでの険しい道のり(1993年撮影)
Mt. Gantung summit.jpg
▲ピークの木の上に登って吹き上げで飛んでくるパラワンミドリシジミを待つ(1993年撮影)

ピークでは木の上に登って吹き上げで飛んでくる蝶を得るらしいが、遠くには海も見える絶景の場所のようである。天気に恵まれたら、いろいろなチョウが採れそうな場所で見ているだけでワクワクしてくる。悪天候なら真っ先に落雷で感電死しそうな場所でもあるが…。

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▲パラワンミドリシジミ♂

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▲パラワンミドリシジミ♀

 パラワンミドリシジミが得られるのは12月から5月にかけてのようで、年1化のゼフィルスとしては俄には信じ難い長期間に及ぶ発生期である。熱帯では温帯のような季節の論理が通用しないので、食樹の芽吹きに合わせて柔軟に発生しているのかもしれないが、それにしても情報が乏しすぎる。マレーシア半島とジャワ、スマトラから知られるネッタイミドリシジミ(Austrozephyrus absolon)、ボルネオから知られるボルネオミドリシジミ(Borneozephyrus borneanus)それに本種の3種類は、いずれも熱帯の島に舞う大変特異なゼフィルスである。幼生期は未知で、生活史の解明が切に望まれる。ジャングルに分け入る有望な若者たちの活躍に期待を託したい。

 最後になるが、貴重な現地の写真を御提供いただいた木曜社の西山保典氏に厚く御礼申し上げる。
  
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森に棲む翡翠、イワカワシジミ / The Green Flash~A Jade flying in the deep forest [世界の蝶 / Butterflies World]

 森に棲む翡翠、イワカワシジミ

 一昨年開設した本ブログ、アクセスして下さる皆さんに支えられ、どうにかこうにか三日坊主に終わらずにきょうまで何とか続いてきた。ついに今回で記念すべき100回目の記事となる。
 そこで今回はブログ編集子の好きなチョウを、驚愕の秘蔵標本とともに紹介してみよう。

 紹介したいのは、日本でも南西諸島に見られるイワカワシジミ(Artipe eryx)である。イワカワシジミは特異な裏面の緑色で、他に見間違う種はまったくいない。その高貴な姿はまさに「森に棲む翡翠」とでも形容したくなる気品にあふれている。羽化したての成虫の裏面を写した画像を以下に掲載しよう。

eryx adult.jpg
▲羽化したての♂(2006年6月 沖縄島南部にて撮影)

 本種はクチナシを食樹とするが、面白いことに通常のチョウの幼虫のように葉を食べるわけではなく、主に実の中に食い入って、その中身を食べる。実が無い時期には蕾と花を食べて成長する。このように実を食べるチョウは他にも近縁種でいくつか知られているが、興味深い生態である。

eryx nest.jpg
▲終齢幼虫が食い入ったクチナシの実。特徴的な丸い穴が開く(2006年5月 沖縄島南部にて撮影)
eryx pupa.jpg
▲実の中で蛹となる。開けてみたところ(2006年6月 沖縄島南部にて撮影)
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▲実の無い時期には花を食べる。幼虫を飼育している容器の中はクチナシの佳い香りがする

 このイワカワシジミが属するArtipeというのは小さな属で、本種eryxの他には、わずか数種が東南アジアからニューギニアにかけて知られるのみである。本種こそ日本では割に見られるが、東南アジアで見つけるのは至難の業である。東南アジアのシジミチョウ研究で活躍した当会元理事、故・長田志朗氏はラオスでイワカワシジミの幼生期を解明し、本会会誌No.17で報告しているが、大陸のイワカワシジミは日本のものに比べて2回りは大きく、♀の尾状突起も遥かに長く優美で、俄に同種とは信じがたいものがある。さすがにこの大きさだと日本のようにクチナシの実に食い入るわけにはいかず、長田氏が発見したのはアカネ科のRandia dumetorumという植物の実であったそうだ。

Laos eryx (Butterflies No.17).jpg
▲ラオス産イワカワシジミの幼生期(長田(1997), Butterflies No.17より)

 しかしまだまだ世界は広い。ニューギニアと周辺属島には、恐るべきイワカワシジミが棲息しているのだ。御託を並べるより前に、まず以下の画像を見ていただきたい。

Artipe female UP.jpg
▲右:ドヘルティーイワカワシジミ♀表面(インドネシア・ヤーペン島産:柳下昭コレクション)と左:イワカワシジミ♀表面(沖縄・石垣島産)
Artipe female UN.jpg
▲同裏面

 どうだろう。まさにお化けとしか形容しようのない、巨魁イワカワシジミである。日本のイワカワシジミだってシジミチョウにしては大柄な方であるが、このイワカワシジミと比べるとまるで大人と子供みたいである。この巨大な種はドヘルティーイワカワシジミ(Artipe dohertyi ssp.)と暫定的に同定されているが、インドネシア・ヤーペン島ではこれまで未記録であるばかりか、斑紋もニューギニア本島産と大きく異なり、果たしてこの種かどうか定かではない。何よりこの大型種はニューギニア本島でもこれまでに僅かな個体が得られているのみの大珍品で、大英博物館やオーストラリアの博物館の僅かな資料を集めて比較することすら容易ではない。とはいえ現在、この標本の所有者で、世界的に著名なカザリシロチョウ研究家の柳下昭氏(本会会員)は海外の研究者とともにDNAも含めた研究を進めているという。結果を楽しみに待ちたい。
 それにしても、この巨大なイワカワシジミの幼虫が食い入る「実」とは、いったいどんなに大きいのだろうか。リンゴくらいの大きさがなければ、到底こんな巨体を育てることはできないように思う。ヤーペン島、ぜひ行ってみたいものだ。最後にヤーペン島の位置図を掲載して本稿を終えたい。

Schouten_Islands_(IN)_Topography.png
▲ヤーペン島位置図(Wikipediaより)

アクセス殺到! 愛読記念に追加で秘蔵画像を公開!!

Artipe spp. male.jpg
▲右:ドヘルティーイワカワシジミ♂表面(インドネシア・ヤーペン島産:柳下昭コレクション)と左:イワカワシジミ♂表面(沖縄・石垣島産)

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